糺の森のアルキオーネ

ただすの もりの あるきおーね

⒎ ハコニワでの邂逅(かいこう) ①

とてもさみしかった。

 

 

テレビに重なるようにして目に入る
短く刈り上げられた
見慣れた後頭部。

 


お笑い番組に合わせて響き渡る
男性にしては少し高い
カンに触る 笑い声。

 


ゆすり上げられる
以前より少し丸まった
両肩と背中。

 

 

スクリーンセーバーでもかけないと
網膜に焼き付いてしまう。

 

 

 

ため息をついて
携帯電話の 画面に目を落とす。

 

 

そこにあるのは

 


小さな小さな
綺麗なお庭に
美しく並べられた
アニメちっくな
可愛い花や雑貨たち。

 

 

外の世界は 全く思い通りになんてならないけれど
この手のひらに収まるお庭は
時間と手間をかけてあげれば
美しく応えて 私を癒してくれる。

 

 

私はいつしか

夫とのセックスレス
さみしさを紛らすために始めた
SNSでの ガーデニングゲームに
どっぷりハマっていた。

 

 

そこには 会ったことも
声を聞いたこともない
友人たちがやってきて
「かわいいお庭ですね」
と メッセージを残していく。

 


メッセージの主のハンドルネームは
リンクになっていて
そこを ぽちっとすると
相手のお庭に行けるのだ。

 


お庭の設え(しつらえ)方で
なんとなく その人の
人となりが 伝わってくる。

 


氣に入った人のお庭では
植物が もっと育つように
ボタンを押してお手伝いし
一言メッセージを残すこともある。

 


そんな風にして
穏やかで
淡くて薄い
当たり障りのない人間関係が
始まってゆく。

 

 

 


そんな中で
黒板を爪で引っかいたように
感じる出来事があった。